2013年4月5日金曜日

100年愛


川沿いの桜並木があまりに美しく、普段の散歩で見る景色も
まるで映画の中の世界のよう。
いつも立ち止まらないのだけど、初めてベンチに腰を下ろす。
普段とは違う角度からいつもの風景を眺めると
そこは見慣れない美しく新しい世界に見える。

天気が良い平日の昼下がり、人もあまりいないことをいいことに
ベンチをひとり占め。
桜が川面に向かって枝を延ばし咲いている。
しだれ桜でないが上にのびるというより
下に向かっている、そんな桜の姿はここでしか見られないと思う。
風に舞う桜と太陽の光が反射してキラキラ光る水面と
呼吸に意識を向けると、日常から切り離され
本当に映画のワンシーンに入ってしまったよう。
すると現実も映画のような出会いを誘ってくれた。

川沿いをこちらに向かって歩く老婆と目が合うとお互いに微笑みあった。
なんだかベンチを空け、一緒に座って景色を堪能した方が良い気がした。
それは自然と実現し、気がつくと昔からの知り合いのように
話しだしていた。

聞くとその方、今年で100歳だそう。
髪も黒く、心も若く、頭の回転も速い。

この目の前の景色の美しい事

私の亡くなった祖母に近い年齢から
祖母の昔の話

お互いの家族の話

結婚や恋愛、

日常のことから健康についてなど

笑いも交えながらとめどもなく続く会話。

その中でメッセージのように心に残る言葉があった。

「幸せってのは気の持ちよう。
幸せだと思えれば幸せ、大変な事があっても
不幸と感じなければつらくないしね。。」とか

「人にした事は、その人から直接でなくても
絶対自分にかえってくるからね。」

「感謝の気持ちって大事よ。」

100年生きた人から選ばれた言葉。すごく心に届く。

お名前はキヨさん。
こんなに元気で楽しくいらっしゃるが
持病は癌らしい。
老うと進行も遅いし痛みもなければ共存
出来るから、老いが先か癌の進行が先か
あるがままに死を受け入れたいって。

今は都内にお一人暮らしで、毎年法事でこの時期は
蓮田の息子さんのご家族のところに来て
数日泊まるそう。
桜を見るのも楽しみのようだ。
でも、もう今年が最後かもという。

とても元気で最後には思えない。
何よりまた会ってお話がしたいから
来年もまたここで会いましょうよ
約束しましょうと言うと

桜に向かって

「桜さん、聞いて。
また私、このかたとお会いしたいから、
来年もまたここへ来れますように。」

と笑顔でお願いする。

本当にかわいらしく楽しい方。


一番感動したのは、旦那様の話だった。

旦那さまは入院している病室のベッドで
生前一番の趣味であった俳句を
いつも書いていたそう。

旦那さまが亡くなられる前日、
最後の力を振り絞ったのだろう
ぎりぎり読める文字で

「必ずや、また君に会おう」

と書いて見せてくれたそうだ。

旦那さまは、言葉も交わせる状態ではなかった。

キヨさんは会話をするように、
「君」というのが自分のことなのか
確かめるように指で自分の顔を指したら
旦那さまは頷いて静かに目を閉じられた。
それで安心したのか次の日の朝お亡くなりに
なられたそう。

生前は無骨でありがとうも言ってくれない人だったのにね。
と笑いながら話すキヨさん。
旦那様のご趣味の俳句はずっとしたためていたのか
最後、愛と感謝を伝えるラブレターに。

その話を聞いていたらお二人の愛を感じた。
そしてまるでその場に会った事もない旦那さんが
いらっしゃるようで、愛は永遠なのだと感じた。
きっとキヨさんの中に生きる旦那さまの存在がそう
感じさせるのかもしれないし、本当に旦那さんの魂も
私たちと一緒に桜を見ていたのかもしれない。

別れ際、キヨさんは私に言った。
いつでも旦那さんには笑顔でね。
幸せになるのよって。
お嫁さんを見送る母のような祖母のような
存在に思えた。

キヨさんと旦那様の最期の話が胸に残り、
自分もそういう風に伴侶に生まれ変わっても
また選んでもらえるような女性になりたいと
思った。シンプルだけどこんな風に考えたのは
初めてだった。

私はキヨさんに元気でいてくださいと
お互いのこれからにお互い希望を託し
来年また一緒に桜を見る約束をして
握手し別れた。










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